
2026年8月12日、EUの「包装・包装廃棄物規則」(Packaging and Packaging Waste Regulation:PPWR、Regulation (EU) 2025/40)の一般適用が始まりました。EU域内で包装、または包装された製品を市場に出すためのルールを定めた法律で、EUへ製品を輸出している日本企業も対象になり得ます。
「再生材35%などの要件は2030年からなので、まだ先の話」と受け止められがちですが、実際には技術文書やEU適合宣言書(DoC)の作成、生産者登録など、すでに求められている義務があります。また、精密部品や電子部品のように「工業用のB2B製品だから関係ない」と考えられてきた分野も、例外なく対象に含まれます。
本記事では、PPWRの全体像を「誰に・何を・いつから」の観点で整理し、法体系の読み方、日本の製造業の包装で論点になりやすい箇所、施行済みの今まず確認すべきポイントを解説します。
出典:EUR-Lex「Regulation (EU) 2025/40 on packaging and packaging waste」 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/40/oj
JETRO「EU包装・包装廃棄物規則(PPWR)関連情報」 https://www.jetro.go.jp/world/info_eu_ppwr/
PPWRの全体像と、いま確認すべきポイントを1冊にまとめた資料を無料でダウンロードいただけます。
PPWRとは|「指令」から「規則」へ変わったEUの包装ルール
PPWRは、従来の「包装・包装廃棄物指令(Directive 94/62/EC)」を置き換える法律です。最大の違いは、法形式が「指令」から「規則」へ変わったことです。
指令は加盟国に目標を示し、具体的なルールは各国の国内法に委ねる形式でした。一方、規則はEU全体にそのまま適用され、加盟国の国内法化を待たずに効力を持ちます。加盟国ごとにばらばらだった包装のルールが統一される一方で、企業は「国内法ができるまで様子を見る」ことができなくなりました。
成立から適用までの流れ
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年12月19日 | 採択 |
| 2025年1月22日 | EU官報で公布 |
| 2025年2月11日 | 発効 |
| 2026年8月12日 | 一般適用開始 |
法的根拠は「域内市場の統一」
PPWRの法的根拠は、EU機能条約(TFEU)114条です。加盟国ごとに異なる包装規制が域内市場の障壁になることを防ぎ、包装のルールをEU全体で統一することが目的とされています。対象は材質を問わずすべての包装と包装廃棄物で、産業用・製造用・小売用・流通用・家庭用の区別はありません。
ゴミの規制ではなく「製品を売るための条件」
名称に「廃棄物」とあるため誤解されやすいのですが、PPWRは包装を捨てるときだけの規制ではありません。PPWRに適合した包装でなければ、EU市場に出すことができない(4条)という、製品コンプライアンス規制としての性格を持っています。包装を設計・調達し、製品を詰め、EUへ出荷する段階から適用されます。
PPWRは1本の法律で完結しない|4つの階層で読む
「規則には35%と書いてあるのに、計算方法が分からない」という状況が起きるのは、細かいルールが下位の法令に委ねられているためです。PPWRを読むときは、次の4つの階層を区別することが大切です。
| 階層 | 内容 | 拘束力 |
|---|---|---|
| 規則本文(Regulation (EU) 2025/40) | 義務の本体。加盟国の国内法化を待たずに直接適用される | あり |
| 委任法令・実施法令 | リサイクル設計(DfR)の基準、再生材の算定方法、再使用の最低回転数、ラベル仕様など。2027〜2028年に順次制定 | あり |
| 欧州委員会のガイダンス・FAQ | 条文の読み方を示す。2026年に公表され、以後も更新され得る | 参考(拘束力なし) |
| 加盟国の国内措置 | 罰則額、EPR登録の手続、EPR料金など。国ごとに異なる | 国ごとに異なる |
PPWRの期限に「〇年、または実施法令の発効から〇か月後のいずれか遅い方」という表現が多いのは、2段目の委任法令・実施法令がまだ出そろっていないためです。ガイダンスは法令を置き換えるものではなく、最終的な解釈権限はEU司法裁判所にあります。
誰が対象になるのか|日本企業も無関係ではない
PPWRは、材質や産業を問わず、EU市場に出されるすべての包装を対象としています(2条)。「工業用の製品だから」「B2Bの取引だから」という理由で対象外になることはありません。
注意したいのは、PPWRが包装に関わる会社を役割ごとに分け、役割によって異なる義務を課している点です。
| 役割 | 主な立場 | 主な条文 |
|---|---|---|
| メーカー(製造者) | 包装の仕様(材質・寸法・構造)を決めて発注する者 | 5〜7・10〜12・15・39条 |
| 輸入者・販売者 | EUに持ち込む者、EUで販売する者 | 18・19・21条 |
| 包装を充填する者 | 製品を包装に詰める者 | 24・27・29条 |
| producer(生産者) | EUの各国で最初に包装・包装済み製品を提供する者 | 44・45条 |
| 加盟国 | 回収制度や目標を整える。企業の義務ではない | 43・48・52条など |
同じ会社が複数の役割を負うことがある
たとえば、日本の電子部品メーカーが、製品を収める専用容器の材質と寸法を指定して容器メーカーに発注し、自社工場で製品を詰めて段ボール外装に入れ、パレットに積んでEUの顧客工場へ直接販売しているとします。この場合、メーカー・充填者・producerのすべてに当たる可能性があります。逆に、EUの販売子会社や代理店、商社を経由すると、役割が別の会社に分かれることもあります。役割の考え方は、PPWRのproducerとは?製造者・輸入者との違いで詳しく解説しています。
何が求められるのか|6つの要求事項
PPWRが包装に求める内容は、大きく次の6つに整理できます。
- リサイクル可能な設計:2030年からリサイクル可能性の等級(A・B・C)で判定され、2038年からは等級Cの包装は上市できなくなります(6条)
- プラスチック包装への再生材の使用:一般的なプラスチック包装では2030年に35%、2040年に65%の再生材が求められます(7条)。詳しくはPPWRの再生材含有率35%とは?をご覧ください
- 包装の最小化と空きスペースの削減:重量・体積を必要最小限にし、輸送包装などの空隙率は50%以下にします(10条・24条)
- 再使用:輸送包装などは2030年に40%を再使用包装にすることが求められます(29条)。詳しくはPPWRの輸送包装再使用40%とは?をご覧ください
- 表示:材質構成のEU統一ラベルや再使用包装のラベルが段階的に始まります(12条)。事業者名や連絡先などの識別情報の表示も求められます(22条)
- 廃棄費用の負担(EPR):producerは加盟国ごとに登録し、包装が廃棄物になったときの費用を負担します(44条・45条)
このほか、包装材に含まれる懸念物質(SoC)の存在と濃度を最小化することも求められます(5条)。樹脂の添加剤やESD(静電気対策)材料を含む包装では、供給者から化学物質の情報を取得しておく必要があります。
役割ごとの義務を一覧にした「義務の整理表」を含む資料を無料でダウンロードいただけます。
いつから何が始まるのか|「すでに求められている義務」がある
PPWRの要件は一斉に始まるわけではなく、段階的に適用されます。ただし、次の義務は2026年8月12日の適用開始とともにすでに発生しています。
- メーカーによる適合性評価と技術文書の作成(15条)
- EU適合宣言書(DoC)の作成と保管(39条)
- 輸入者による適合の確認と、当局の要請から10日以内の書類提出(18条)
- 懸念物質の最小化。食品と接触する包装のPFAS制限(5条)
- producerの登録とEPR(44条・45条)
技術文書とDoCについては、PPWRのEU適合宣言書(DoC)と技術文書とは?で詳しく解説しています。
一方、再生材含有率、リサイクル等級、空きスペース、再使用目標などの重い要件は、2030年1月前後に集中して本格化します。材料の変更や顧客の承認にかかる期間を考えると、実質的な準備期限は2029年末と考えておく必要があります。期限の全体像はPPWRの適用スケジュール一覧にまとめています。
日本の製造業の包装では、どこに効くのか
精密部品や電子部品のように、日本の工場で製品を梱包してEUの顧客工場へ届ける場合、包装は段階ごとに異なる条文の影響を受けます。代表的な包装と論点を整理すると、次のとおりです。
| 包装 | 主な論点 | 関係する条文 |
|---|---|---|
| 専用容器・製品ケース・トレイ | 樹脂製なら再生材含有率、多材質構成ならリサイクル設計が焦点 | 5・6・7・11条 |
| 防湿袋・ESD袋 | アルミラミネートなど多層構造のリサイクル設計 | 5・6・7条 |
| 緩衝材・段ボール外装 | 緩衝材で埋めた空間も空きスペースに算入。必要量の説明 | 6・10・24条 |
| パレット・ストレッチフィルム・ストラップ | EU域内での再使用目標の対象 | 6・7・29条 |
また、法的に大きな分岐点になるのが「EUで通関し、最初のEU倉庫に入る段階」と「顧客工場で開梱され、包装が廃棄物になる段階」です。前者で上市とproducerの義務が発生し、後者でEPRの費用が発生します。出荷から顧客到着までを8つの段階に分け、どの段階でどの条文が効くかを整理した図は、資料に掲載しています。
よくある誤解と、実際のルール
社内で次のような認識があれば、早めに見直しが必要です。
| よくある誤解 | 実際のルール |
|---|---|
| 工業用・B2Bの製品だから対象外 | 材質・産業を問わず、すべての包装が対象(2条) |
| 高純度・クリーン用途だから再生材は免除 | 業種による除外はない。除外は列挙された用途などに限られる(7条) |
| 丈夫な容器なら再使用包装になる | 回収・洗浄・検査・記録の仕組みへの参加が必要(11・27条) |
| 2030年までは何もしなくてよい | 技術文書・EU適合宣言・producer登録はすでに適用済み |
このほかの誤解も含めた一覧は、資料にまとめています。
対応しないとどうなるのか
PPWRに適合しない包装は、EU市場に出すことができません。各国の当局による市場監視(62条)の対象となり、不適合が続けば是正・回収・撤去・上市禁止などを命じられる可能性があります。
罰則は加盟国ごとに有効・比例的・抑止的なものとして定められ、整備期限は2027年2月12日です。罰金額はEUで一律ではないため、主な販売先の国の国内法も確認する必要があります。また、EUの輸入者は日本のメーカーが書類を整えていることを確認する義務を負うため、書類がそろっていなければ、取引先から出荷の受け入れを止められるおそれもあります。
施行済みの今、まず確認すべき3つのこと
PPWRへの対応は、包装材を変えることから始めるものではありません。まずは「誰が・何を・どの国で」負うのかを確定させることが出発点です。
1. 自社の役割を確定する
EU向けの商流を「日本から顧客へ直送」「EUの輸入者経由」「EUの物流センター経由」などに分け、自社がメーカー・輸入者・producerのどれに当たるのかを整理します。商流によって、義務を負う会社が変わります。
2. 包装の情報をそろえる
技術文書やDoCを作成するには、包装の材質や部品ごとの重量、サプライヤーの材料情報が欠かせません。情報がそろっていなければ、再生材の判定もEPR費用の算定もできません。
3. 化学物質とEPR登録の状況を確認する
包装材に含まれる懸念物質の情報と、すでに登録や代理人の選任を済ませている国があるかを確認します。
それぞれの具体的な進め方や、包装設計・調達・物流・法務・営業などの部門ごとの確認項目は、資料で詳しく解説しています。
よくある質問
Q. 日本からEUへ輸出しているだけでも対象になりますか?
A. 対象になり得ます。PPWRはEU市場に出されるすべての包装に適用され、製造された場所は問いません。どの義務を負うかは、商流と取引条件によって決まります。
Q. 工業製品のB2B包装も対象ですか?
A. 対象です。材質や産業を問わず、すべての包装が対象です。業種を理由とした一般的な除外規定はありません。
Q. 2030年までは何もしなくてよいですか?
A. いいえ。技術文書、EU適合宣言書、producerの登録などは、すでに適用が始まっています。
Q. 欧州委員会のガイダンスやFAQに従っていれば十分ですか?
A. ガイダンスやFAQは条文の読み方を示すもので、法的な拘束力はありません。規則本文と委任法令・実施法令を確認したうえで、解釈の参考として活用するのが適切です。
Q. 罰則はEUで共通ですか?
A. 共通ではありません。罰則は加盟国が定めるため、主な販売先の国ごとに確認が必要です。
まとめ
PPWRは2026年8月12日に適用が始まり、技術文書やEU適合宣言書などの義務はすでに発生しています。規則本文だけでなく委任法令やガイダンスを含む4つの階層で読む必要があり、2030年に向けて要件は段階的に厳しくなります。最初にやるべきことは、自社の役割を確定し、包装の情報をそろえることです。
エイトスでは、PPWRの全体像、役割ごとの義務の整理表、出荷から顧客到着までの8段階の整理、期限の一覧、部門別のチェックリストをまとめた資料をご用意しています。社内での検討にお役立てください。
PPWR対応のポイントをまとめた資料を無料でダウンロードいただけます。
← コラム一覧へ戻る