
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)は、耐熱性・耐薬品性・撥水撥油性に優れることから、フッ素樹脂、半導体製造、電子部品、シール材、潤滑剤など、日本の製造業が得意とする分野で幅広く使われてきました。一方で、環境中でほとんど分解されず「永遠の化学物質」とも呼ばれることから、EUでは物質群をまとめて規制する動きが進んでいます。
中心となるのは、REACH規則に基づく「PFAS一括制限案」です。2026年3月に欧州化学品庁(ECHA)のリスク評価委員会(RAC)が最終意見を採択し、社会経済分析委員会(SEAC)の意見案に対する意見募集も5月に締め切られました。2026年10月時点では、SEACの最終意見と、その後の欧州委員会による制限案の作成を待つ段階にあります。並行して、消火泡、PFHxA、食品接触包装、玩具、飲料水など、個別の分野ではすでに確定したルールが動き出しています。
本記事では、2026年10月時点で「確定しているもの」と「審議中のもの」を区別しながらEUのPFAS規制を整理し、日本の製造業への影響と、サプライチェーンでの含有調査の進め方を解説します。
出典:ECHA「ECHA's Risk Assessment Committee adopts its opinion on PFAS restriction proposal」 https://www.echa.europa.eu/-/echa-s-risk-assessment-committee-adopts-its-opinion-on-pfas-restriction-proposal
ECHA「ECHA to consult on PFAS draft opinion in spring 2026」 https://echa.europa.eu/-/echa-to-consult-on-pfas-draft-opinion-in-spring-2026
欧州委員会「Implementation of the Drinking Water Directive」 https://green-forum.ec.europa.eu/implementation-drinking-water-directive_en
EUR-Lex「Regulation (EU) 2025/40 on packaging and packaging waste」 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/40/oj
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EUのPFAS規制とは|1つの法律ではなく「複数の規制の束」
「EUのPFAS規制」という1本の法律があるわけではありません。PFASは、化学物質の規制(REACH規則、POPs規則)、製品の規制(包装、玩具)、環境の規制(飲料水)など、複数の法律でそれぞれ規制されています。
多くの法律で共通しているのが、PFASを「少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチル基(CF3-)またはメチレン基(-CF2-)の炭素原子を含む物質」とする広い定義です。OECDの定義に沿ったもので、この定義に従うと1万種類を超える物質が該当するとされ、フッ素樹脂(PTFE、PVDF、FKMなど)のようなポリマーも含まれます。「自社はPFOAやPFOSを使っていないから関係ない」とは言えない点に注意が必要です。
REACH規則の制限(附属書XVII)の仕組みそのものは、REACH規則の解説記事で詳しく紹介しています。
2026年10月時点の全体像|確定しているもの・審議中のもの
まず、主な規制の状況を一覧にします。「確定」は法令として採択・公布済みのもの、「審議中」はまだ法的な義務になっていないものです。
| 規制 | 主な内容 | 状況(2026年10月時点) |
|---|---|---|
| POPs規則(Regulation (EU) 2019/1021) | PFOS、PFOA、PFHxSとその塩・関連物質の製造・上市・使用を原則禁止 | 確定・適用中。C9〜C21のPFCAを追加する改正が進行中 |
| REACH附属書XVII:PFHxA制限(Regulation (EU) 2024/2462) | PFHxAとその塩25ppb、関連物質1,000ppbを上限に、繊維・食品包装・化粧品などの用途で制限 | 確定。2026年10月10日に第1段階の適用開始 |
| REACH附属書XVII:消火泡(Regulation (EU) 2025/1988) | PFAS合計1mg/L以上の消火泡の上市・使用を段階的に禁止 | 確定。2025年10月公布、全面禁止は2030年10月23日 |
| PPWR 5条(Regulation (EU) 2025/40) | 食品と接触する包装のPFAS濃度上限 | 確定。2026年8月12日から適用 |
| 玩具安全規則(Regulation (EU) 2025/2509) | 玩具へのPFASの意図的な使用を禁止 | 確定。2030年8月1日から適用 |
| 飲料水指令(Directive (EU) 2020/2184) | 「PFAS合計」0.1µg/L、「PFAS総量」0.5µg/L | 確定。2026年1月12日から適用 |
| REACH一括制限案 | PFAS全体の製造・上市・使用を原則禁止し、用途ごとに猶予期間を設ける | 審議中。RAC最終意見は採択済み、SEAC最終意見は2026年末の見込み |
REACHに基づくPFAS一括制限案|審議はどこまで進んだか
2023年の提出から2026年の委員会意見まで
一括制限案は、ドイツ、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの5か国の当局が2023年1月にECHAへ提出し、同年2月に公表されました。2023年の意見募集には5,600件を超える科学的・技術的なコメントが寄せられ、5か国はこれを踏まえて提案を見直しました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2023年1月 | 5か国がECHAに制限案を提出(同年2月に公表) |
| 2023年3〜9月 | 第1回の意見募集(5,600件超のコメント) |
| 2025年8月20日 | ECHAが更新版の制限案(Background Document)を公表 |
| 2026年3月上旬 | RACが最終意見を採択 |
| 2026年3月 | SEACが意見案に合意 |
| 2026年3月26日〜5月25日 | RAC最終意見とSEAC意見案を公表し、SEAC意見案への意見募集を実施 |
| 2026年末(見込み) | SEACの最終意見の採択 |
| その後(時期未定) | 欧州委員会が附属書XVIIの改正案を作成し、REACH委員会(加盟国代表)で審議 |
2025年8月の更新版で変わったこと
更新版では、当初の提案で個別に取り上げていなかった8つの分野(印刷用途、シール用途、機械用途、医薬品の一次包装などのその他医療用途、軍事用途、爆発物、テクニカルテキスタイル、溶剤や触媒などの幅広い工業用途)が追加されました。また、「全面禁止」か「期限付きの適用除外」かに加えて、リスクを管理した条件のもとでの使用継続という選択肢が新たに検討されています。
なお、RACとSEACが詳細に評価しているのは当初の14分野(PFASの製造などを含めて15分野とする整理もあります)で、追加された8分野は、審議を2026年より後に延ばさないために、分野横断的な措置として限定的に扱われるとされています。
RACとSEACの意見の違い
RACは、PFASをまとめて規制することは科学的に正当であり、既存の規制では不十分だと結論づけました。PFASを「閾値のない物質」として扱い、排出はわずかでも有害になり得るという立場で、科学的には全面禁止に近い厳しい内容を支持しています。
一方、SEACの意見案は、幅広い制限を支持しつつも、短い移行期間での全面禁止は比例性を欠くとし、代替品がまだない用途には期限付きの適用除外が必要だとしています。また、RACが求める一部のリスク管理措置が比例的かどうかは結論が出ておらず、追加情報を求めています。最終的に、どの用途にどの程度の猶予を与えるかは欧州委員会が決めます。
欧州委員会の決定はいつか
欧州委員会は、2つの最終意見がそろった後、速やかに改正案を示すとしています。ただし、2026年10月時点で改正案の公表日やREACH委員会での採決日は示されていません。SEACの最終意見が2026年末に採択されれば、改正案の作成と審議は2027年以降になる見通しです。採択後も、一般的な移行期間や用途ごとの猶予期間が設けられるため、実際に禁止が適用されるのはさらに先になります。
用途別の猶予期間案|18か月・5年・12年の考え方
制限案の基本構造は、「PFASの製造・上市・使用を原則禁止し、例外として列挙した用途にだけ猶予期間を与える」というものです。濃度の基準としては、次の値が提案されています。
- 個々のPFAS(ターゲット分析):25ppb
- PFASの合計(ターゲット分析):250ppb
- ポリマーを含むPFAS全体:50ppm(全フッ素が50mg/kgを超える場合、当局の求めに応じてPFAS由来かどうかを説明する必要)
猶予期間は、発効後の一般的な移行期間18か月に、用途に応じて5年または12年の適用除外を上乗せする構造が提案されています。つまり、用途によって禁止までの期間はおよそ1年半、6年半、13年半に分かれることになります。
| 区分 | 禁止までの期間(案) | 想定される用途の例 |
|---|---|---|
| 適用除外なし | 発効から18か月 | 代替品が広く普及している消費者向けの用途など |
| 5年の適用除外 | 発効から6年半 | 代替品の開発・認証に一定の期間が必要な用途 |
| 12年の適用除外 | 発効から13年半 | 代替が技術的に難しい産業用途(半導体製造装置の部品などが論点) |
| リスク管理下での使用継続 | 期限を設けず条件付きで認める案 | PFASの製造、輸送分野など一部で検討 |
個々の用途にどの区分が割り当てられるかは、2025年8月の更新版とSEACの意見案で示されていますが、欧州委員会の改正案で変わる可能性があります。自社製品の用途がどの区分に入る案になっているかは、Background Documentの該当分野で確認する必要があります。
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すでに適用・確定している個別のPFAS規制
POPs規則:PFOS・PFOA・PFHxS
POPs規則は、ストックホルム条約を実施するEUの規則で、PFOS、PFOA、PFHxSとその塩・関連物質の製造・上市・使用を原則として禁止しています。PFHxSは2023年8月に追加され、PFHxSとその塩は0.025mg/kg、関連物質は合計1mg/kgが非意図的な微量汚染の上限とされています。PFOAの項目も2025年に改正されています。さらに、2025年のストックホルム条約締約国会議での決定を受けて、C9〜C21の長鎖PFCAを追加する改正が進められています。
PFHxA制限:2026年10月10日から第1段階
PFHxAとその塩・関連物質の制限(Regulation (EU) 2024/2462)は2024年9月に採択され、10月に発効しました。2026年10月10日から、一般消費者向けの衣類・アクセサリーの繊維・皮革、一般消費者向けの履物、食品接触用の紙・板紙などに、PFHxAとその塩25ppb以上、関連物質1,000ppb以上を含むものを上市できなくなりました。2027年10月10日にはそのほかの繊維・皮革などに対象が広がります。適用日より前に上市された製品は対象外です。
消火泡:2030年に全面禁止
消火泡のPFAS制限(Regulation (EU) 2025/1988)は2025年10月2日に採択され、10月3日に公布されています。PFAS合計1mg/L以上の消火泡は、2030年10月23日から上市・使用が禁止されます。携帯式消火器向けの上市は2026年10月23日まで(耐アルコール泡は2027年4月23日まで)とされ、訓練・試験や公設消防での使用は2027年4月23日まで、Seveso指令の対象施設などは2035年10月23日までの猶予があります。
PPWR:食品接触包装のPFAS(2026年8月12日から)
PPWR(Regulation (EU) 2025/40)5条により、2026年8月12日から、食品と接触する包装には一括制限案と同じ考え方の濃度上限(個々のPFAS 25ppb、合計250ppb、ポリマーを含むPFAS 50ppm)が適用されています。適合は技術文書で示す必要があります。包装規制の全体像はPPWR(EU包装・包装廃棄物規則)の解説記事をご覧ください。
玩具安全規則と飲料水指令
新しい玩具安全規則(Regulation (EU) 2025/2509)は2025年12月12日に公布され、2030年8月1日から適用されます。玩具へのPFASの意図的な使用が禁止されます。飲料水指令では、2026年1月12日から、20種類のPFASの合計(0.1µg/L)とPFAS総量(0.5µg/L)の基準が適用されており、加盟国はどちらか、または両方を採用します。
日本の製造業への影響|分野別に見る論点
一括制限案が採択されれば、EU域内での製造だけでなく、PFASを含む混合物や成形品をEUへ輸出することも制限の対象になります。日本企業にとって影響が大きいと考えられる分野は、次のとおりです。
- フッ素樹脂メーカー:PTFE、PFA、FEP、PVDF、フッ素ゴムなどのポリマーそのものが対象に含まれます。製造時の加工助剤やモノマーの扱いも論点です。EU向けの販売量だけでなく、顧客の用途ごとの猶予区分を把握する必要があります。
- 半導体・半導体製造装置:装置の配管、バルブ、ポンプ、シールなどの部材や、プロセス薬液にPFASが使われています。電子・半導体分野は、SEACの意見案で現行用途に一時的な適用除外を設ける方向とされていますが、期間は確定していません。
- 電子部品:電線被覆、コネクタ、プリント基板材料、コンデンサなどにフッ素系材料が使われます。部品単体だけでなく、組み込まれた最終製品の上市にも影響します。
- シール材・ガスケット:2025年8月の更新版で「シール用途」が新たな分野として追加されました。代替が難しい高温・耐薬品用途が多く、適用除外の根拠を示す情報が重要になります。
- 潤滑剤・離型剤・表面処理剤:フッ素系のグリースやオイル、撥水撥油剤などの混合物は、濃度の判定が比較的明確な一方、用途によっては短い猶予しか認められない可能性があります。
なお、EUの顧客の中には、規制の採択を待たずに調達基準として「PFASフリー」を求める企業も出ています。
サプライチェーンでのPFAS含有調査の進め方
PFASの定義は広く、SVHCのように物質の一覧で確認する方法では漏れが出ます。含有調査は、次の順序で進めるのが現実的です。
1. 対象製品とEU向けの商流を洗い出す
EUに出荷している製品、EUの顧客の製品に組み込まれる部品、EU域内で使う製造装置などを洗い出します。商流によって、制限の対象になる「上市」に当たるかどうかが変わります。
2. 部材・材料ごとにフッ素系材料の使用を確認する
部品表(BOM)から、フッ素樹脂、フッ素ゴム、フッ素系潤滑剤、コーティング、表面処理などを使っている可能性のある部材を絞り込みます。安全データシート(SDS)の成分情報、chemSHERPAの回答、材料メーカーのカタログを突き合わせます。
3. 供給者にPFASの定義を示して回答を求める
「PFOA・PFOS不使用」の証明書だけでは、一括制限案の定義には足りません。CF3-またはCF2-を含む物質という定義を示したうえで、意図的な使用の有無、物質名・CAS番号、ポリマーかどうか、含有量を確認します。「PFASフリー」の宣言は、それだけでは適合の証拠として扱われない点にも注意します。
4. 必要に応じて分析で裏付ける
食品接触包装のように濃度上限がすでに適用されている分野では、全フッ素分析によるスクリーニングと、ターゲット分析を組み合わせた確認が必要です。分析の方法と結果は技術文書として保管します。
5. 猶予区分と照らし合わせて代替を計画する
用途が制限案のどの区分に入る案かを確認し、18か月で禁止される可能性がある用途から代替を検討します。代替が難しい用途は、根拠となる情報を整理しておきます。
よくある質問
Q. PFAS一括制限案はもう決まったのですか?
A. 2026年10月時点では決まっていません。RACの最終意見は採択済みですが、SEACの最終意見は2026年末の見込みで、その後に欧州委員会が改正案を作成し、REACH委員会で審議します。法的な義務になるのは、採択されて附属書XVIIが改正された後です。
Q. フッ素樹脂のようなポリマーも対象ですか?
A. 制限案では、ポリマーも対象に含まれています。ポリマーを含むPFAS全体には50ppmの基準が提案されています。どの用途に猶予が認められるかは今後の審議で決まります。
Q. EUへ部品を輸出しているだけでも影響がありますか?
A. あります。制限は、EU域内での製造・使用だけでなく、PFASを含む混合物や成形品をEU市場に出すことも対象にしています。また、すでに適用されているPFHxA制限や食品接触包装の規制は、輸入品にも適用されます。
Q. いまの段階で、何から手をつければよいですか?
A. まずは、EU向けの製品と部材のうち、フッ素系材料を使っているものを洗い出すことです。そのうえで、すでに適用されている規制(PFHxA、食品接触包装、POPs規則)への適合を確認し、一括制限案については用途ごとの猶予区分を確認します。
Q. 制限案の猶予期間は今後変わる可能性がありますか?
A. あります。猶予の区分や期間は、SEACの最終意見と欧州委員会の改正案、REACH委員会での審議で変わる可能性があります。確定するまでは、公表される文書を継続的に確認する必要があります。
まとめ
EUのPFAS規制は、POPs規則、PFHxA制限、消火泡、食品接触包装、玩具、飲料水など、すでに確定した規制が段階的に適用される一方で、PFAS全体を対象とする一括制限案が審議の最終段階に入っています。2026年10月時点では、RACの最終意見が採択され、SEACの最終意見を待つ段階で、欧州委員会の決定は2027年以降になる見通しです。
日本の製造業にとっては、規制の採択を待たずに、EU向け製品のPFAS含有状況を把握し、用途ごとの猶予区分を確認しておくことが重要です。定義が広いため、供給者への調査では定義を明示し、必要に応じて分析で裏付けることが欠かせません。エイトスのCayzen EHS Researchでは、EUを含む各国の環境・化学物質規制の調査を代行し、自社製品に関係する規制の整理をお手伝いしています。
PFAS規制を含む欧州の化学物質規制の調査を効率化する方法を、資料で紹介しています。
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