
EUの「電池規則」(Regulation (EU) 2023/1542)は、EU市場に出されるすべての電池を対象に、設計・製造から回収・リサイクルまでのルールを定めた法律です。2023年8月17日に発効し、2024年2月18日から適用が始まりました。電池単体を輸出するメーカーだけでなく、電池を内蔵した電気製品や工具、産業機器、車両部品をEUへ輸出する日本企業にも影響します。
2026年10月時点で、物質制限、CEマーキング、生産者のEPR(拡大生産者責任)はすでに適用されています。そして2027年2月18日には、QRコード、バッテリーパスポート、携帯用電池の取り外し・交換可能性という大きな義務が同時に始まります。一方で、カーボンフットプリントやラベルのように下位法令の採択が遅れている義務や、オムニバス(簡素化)法案で延期・修正が議論されている義務もあり、「いつから何が必要か」が分かりにくくなっています。
本記事では、電池の5区分と主な義務、適用時期を整理し、2026年10月時点で確定している事項と審議中の事項を区別したうえで、電池を内蔵した機器を輸出する日本のメーカーが何をすべきかを解説します。
出典:EUR-Lex「Regulation (EU) 2023/1542 concerning batteries and waste batteries」 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/1542/oj
EUR-Lex「Regulation (EU) 2025/1561(電池デューディリジェンス義務の適用延期)」 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/1561/oj
EU理事会「Simplification: Council agrees negotiating stance to simplify and streamline environmental rules」(2026年6月24日) https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2026/06/24/simplification-council-agrees-negotiating-stance-to-simplify-and-streamline-environmental-rules/
EU電池規則を含む欧州の環境・製品規制の調査を効率化する方法を、資料で紹介しています。
EU電池規則とは|「指令」から「規則」へ、ライフサイクル全体を規制
EU電池規則は、従来の「電池指令(Directive 2006/66/EC)」を置き換える法律です。指令は加盟国の国内法を通じて適用されていましたが、規則はEU全体にそのまま適用されます。
旧指令が主に有害物質と回収・リサイクルを扱っていたのに対し、電池規則は対象をライフサイクル全体に広げています。物質制限やラベル表示のほか、カーボンフットプリント、再生材の使用、性能と耐久性、取り外しやすさ、サプライチェーンのデューディリジェンス、デジタルの「バッテリーパスポート」まで、製品設計と調達に直接かかわる要件が盛り込まれています。
電池の5区分|区分によって義務が大きく変わる
電池規則は、電池を用途や重量によって5つに区分し、区分ごとに異なる義務を課しています。自社の製品に入っている電池がどの区分に当たるかを確定させることが、対応の出発点です。
| 区分 | 概要 | 代表例 |
|---|---|---|
| 携帯用電池(portable) | 密閉型で重量5kg以下、かつ産業用・EV用・LMT用として設計されていないもの | 家電、スマートフォン、ノートPC、電動工具などに使う電池 |
| LMT電池(軽量輸送手段用) | 密閉型で重量25kg以下、型式認証を受けない電動の車輪付き乗り物の駆動用 | 電動アシスト自転車、電動キックボード |
| SLI電池 | 車両の始動・照明・点火用 | 自動車の鉛蓄電池 |
| EV電池 | 型式認証を受ける電動車両(L区分の場合は25kg超)の駆動用 | 電気自動車、ハイブリッド車の駆動用電池 |
| 産業用電池 | 産業用途向けに設計された電池、または他の4区分に当たらない5kg超の電池 | 定置用蓄電池、フォークリフト、無停電電源装置(UPS)、産業機器の電池 |
同じリチウムイオン電池でも、5kgを超えるかどうか、車両の駆動用かどうかで区分が変わります。また、カーボンフットプリントやバッテリーパスポートの義務は、産業用電池のうち容量2kWh超のものが対象になるなど、区分の中でもさらに容量で線が引かれています。
主な義務と適用時期の一覧
電池規則の義務は段階的に適用されます。2026年10月時点の状況を整理すると、次のとおりです。「確定」は規則本文で日付が固定されているもの、「条件付き」は下位法令の採択に連動して日付が動くもの、「審議中」はオムニバス法案で変更が議論されているものを示します。
| 義務 | 主な対象 | 適用時期 | 2026年10月時点の状況 |
|---|---|---|---|
| 物質制限(水銀・カドミウム・鉛) | 全電池(区分により異なる) | 2024年2月18日〜(携帯用の鉛は2024年8月18日〜) | 適用済み |
| 適合性評価・CEマーキング | 全電池 | 2024年8月18日〜 | 適用済み |
| 生産者のEPR(登録・回収費用負担) | 全電池の生産者 | 2025年8月18日〜 | 適用済み |
| カーボンフットプリント申告 | EV電池、2kWh超の充電式産業用電池、LMT電池 | 規則上の日付または委任法の発効から12か月後の遅い方 | 条件付き。算定方法の委任法は未採択とされる |
| ラベル表示(Annex VI Part A) | 全電池 | 2026年8月18日、または実施法令の発効から18か月後の遅い方 | 条件付き。実施法令の官報掲載は確認できず |
| QRコード | 全電池 | 2027年2月18日〜 | 確定 |
| バッテリーパスポート | LMT電池、2kWh超の産業用電池、EV電池 | 2027年2月18日〜 | 確定 |
| 取り外し・交換可能性 | 携帯用電池・LMT電池を内蔵する製品 | 2027年2月18日〜 | 確定。ただし一部製品の延期が審議中 |
| デューディリジェンス | 一定規模以上の電池の上市者 | 2027年8月18日〜(当初は2025年8月18日) | 延期が確定済み |
| 再生材の最低含有率 | EV電池、SLI電池、2kWh超の産業用電池など | 2031年8月18日〜(2036年に引き上げ) | 確定 |
すでに適用されている義務|物質制限・CEマーキング・EPR
物質制限(6条・Annex I)
水銀は、機器や車両に組み込まれた電池も含め、すべての電池で0.0005%(重量比)を超えてはなりません。カドミウムは携帯用電池で0.002%以下に制限されています。鉛は、携帯用電池で0.01%以下とされ、2024年8月18日から適用されています。ただし、携帯用の空気亜鉛ボタン電池は2028年8月18日まで鉛の制限が猶予されています。
電池を内蔵した機器を輸出する場合、電池の調達先から含有化学物質の情報を取得し、制限値を下回っていることを確認できる状態にしておく必要があります。REACH規則のSVHC情報とあわせた管理も有効です。REACHの全体像はREACH規則の解説記事をご覧ください。
適合性評価とCEマーキング(17条・20条など)
2024年8月18日から、電池は適合性評価を経てCEマークを付けたうえで上市する必要があります。メーカーは技術文書を作成し、EU適合宣言書(DoC)を作成・保管します。物質制限や性能・耐久性などの要件は、原則としてメーカー自身による内部生産管理で評価できます。一方、カーボンフットプリントや再生材含有率、デューディリジェンスなどの要件では、ノーティファイドボディ(認証機関)の関与が求められる仕組みになっています。
生産者のEPR(2025年8月18日〜)
2025年8月18日から、生産者(producer)は電池を最初に供給する加盟国ごとに生産者登録を行い、使用済み電池の回収・処理費用を負担する義務を負っています。ここでいう生産者には、電池を組み込んだ機器や車両をその国で最初に供給する者も含まれます。つまり、電池メーカーではない機器メーカーでも、EPRの生産者に当たる可能性があります。
EU域外の生産者が加盟国で登録する場合は、その国でEPRのための授権代理人を選任する必要があります。EPRの考え方はEPR(拡大生産者責任)の解説記事で詳しく解説しています。
2027年2月18日に始まる3つの義務|QRコード・パスポート・取り外し
QRコード(13条)
2027年2月18日から、すべての電池にQRコードを付けることが求められます。QRコードからは、ラベル表示の情報やEU適合宣言書などにアクセスできるようにします。
バッテリーパスポート(77条)
LMT電池、容量2kWh超の産業用電池、EV電池は、2027年2月18日からバッテリーパスポートの作成が必要になります。電池ごとに固有の識別子を持つ電子記録で、製造者情報、化学組成、性能・耐久性、カーボンフットプリント、再生材などの情報を記録します。
欧州委員会は2026年8月に、パスポートの各データ項目が必須か任意か、開始時点で記入不要かを示したガイダンスを公表したと報じられています。カーボンフットプリントの申告とラベルについては、下位法令が未整備のため開始時点では記入不要と整理されているとの報道がありますが、細部は欧州委員会の原文で確認する必要があります。パスポートの仕組みは、ESPR(エコデザイン規則)のデジタル製品パスポートと考え方が共通しています。詳しくはESPR(エコデザイン規則)の解説記事をご覧ください。
取り外し・交換可能性(11条)
2027年2月18日から、携帯用電池を内蔵する製品は、エンドユーザーが市販の工具で電池を取り外し、交換できる設計にする必要があります。LMT電池を内蔵する製品も、独立した専門業者が取り外し・交換できる設計が求められます。主に水にぬれる環境で使用するよう設計された製品や、一部の医療機器など、一定の条件を満たす場合の例外も定められていますが、適用範囲は限定的です。
なお、後述するオムニバス法案では、LMT電池パックを対象から外す案や、一部の製品区分で適用を18か月延期する案が議論されていますが、2026年10月時点では確定していません。現時点では2027年2月18日を前提に設計を進めるのが安全です。
日付が動く義務|カーボンフットプリントとラベル
カーボンフットプリント申告(7条)
カーボンフットプリントの申告義務は、EV電池が2025年2月18日、容量2kWh超の充電式産業用電池(外部蓄電専用のものを除く)が2026年2月18日、LMT電池が2028年8月18日を起点とし、いずれも算定・検証方法を定める委任法の発効から12か月後との遅い方とされています。
ところが、EV電池の算定方法を定める委任法は、2024年4月に案が公表されたものの、2026年10月時点で採択されていないと報じられています。このため、申告義務はまだ始まっていないと解されています。
ラベル表示(13条)
電池の容量、化学組成、製造日、有害物質などを示すラベルの表示義務は、条文上「2026年8月18日、または表示仕様を定める実施法令の発効から18か月後のいずれか遅い方」とされています。実施法令は2025年12月に案が公表されましたが、2026年10月時点で官報への掲載は確認できず、実際の適用開始は2026年8月18日より後にずれ込む見込みです。
延期・審議中の義務|デューディリジェンスとオムニバス法案
デューディリジェンスは2027年8月18日に延期(確定)
コバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルなどの原材料について、人権・環境リスクを調査・対処するデューディリジェンス義務は、当初2025年8月18日から適用される予定でした。オムニバス第4弾の一部として成立したRegulation (EU) 2025/1561により、適用開始は2027年8月18日に延期されました。同規則は2025年7月30日に官報で公布され、翌日に発効しています。欧州委員会のガイドラインの公表期限も2026年7月26日に変更されました。
あわせて、純売上高4,000万ユーロ未満の事業者(一定規模以上のグループに属する場合を除く)は対象外とされたと解説されています。対象範囲をさらに絞る提案も議論されていると報じられているため、自社グループが対象になるかは最新の条文で確認してください。
環境オムニバス(オムニバスVIII)は審議中
欧州委員会は2025年12月、環境分野の簡素化パッケージ(環境オムニバス)を提案し、その中に電池規則の修正が含まれています。主な内容として、生産者の定義の明確化、LMT電池パックの取り外し・交換義務の対象からの除外、ラベル表示で考慮する有害物質の範囲の整理などが挙げられています。EU理事会は2026年6月24日に交渉方針を合意し、一部製品区分の取り外し・交換義務を18か月延期する修正を加えたとされています。
ただし、これは理事会の立場であり、2026年10月時点で欧州議会との合意や官報掲載には至っていません。EPRの授権代理人の選任義務を一時停止する別の提案も、理事会での検討が打ち切られたと報じられています。審議中の内容を前提に対応を止めるのではなく、現行の条文を基準に準備を進め、成立した時点で計画を見直すのが現実的です。
電池を内蔵した機器を輸出するメーカーへの影響
電池規則の義務は、電池を内蔵した製品を扱う機器メーカーにも及びます。主な論点は次のとおりです。
| 論点 | 機器メーカーが確認すべきこと |
|---|---|
| 電池の適合 | 内蔵電池がCEマーク・DoC・物質制限に適合しているか。調達先から技術文書とDoCを入手できるか |
| 製品設計 | 携帯用電池を内蔵する製品で、2027年2月18日以降にユーザーが電池を取り外し・交換できる構造になっているか |
| EPR | 製品を最初に供給する国ごとに、自社または輸入者・販売子会社のどれが生産者に当たるか。登録と代理人選任が済んでいるか |
| 表示・情報提供 | 電池のQRコードやラベルを製品の外から確認できるか。取扱説明書に電池の取り外し方法や安全情報を記載しているか |
| パスポート | 2kWh超の産業用電池やLMT電池を組み込む場合、パスポートを誰が作成し、必要なデータを誰が提供するか |
EU域外メーカーと授権代理人
CEマークを付ける製品では、EU市場監視規則(Regulation (EU) 2019/1020)により、EU域内に責任を負う事業者(輸入者や授権代理人など)が必要です。日本のメーカーがEUの顧客へ直接販売する場合は、EU域内の授権代理人を書面で指名し、技術文書やDoCを当局の求めに応じて提出できる体制を整えます。これとは別に、EPRについては加盟国ごとの代理人が必要になる点にも注意が必要です。
まず取り組むべき3つのこと
第一に、EU向け製品に使っている電池を洗い出し、区分(5区分)と容量、化学組成、調達先を一覧にします。第二に、携帯用電池を内蔵する製品について、2027年2月18日に向けた取り外し・交換可能性の設計確認を最優先で進めます。第三に、商流ごとにCEマーキングとEPRの責任者を確定させ、授権代理人や生産者登録の状況を点検します。
よくある質問
Q. 電池を内蔵した機器を輸出しているだけでも対象になりますか?
A. 対象になります。電池規則は、機器に組み込まれた状態で上市される電池にも適用されます。さらに、機器を最初に供給する者はEPRの生産者に当たる可能性があり、携帯用電池を内蔵する製品は取り外し・交換可能性の要件も満たす必要があります。
Q. ラベル表示は2026年8月18日から必須になりましたか?
A. 条文上は「2026年8月18日、または実施法令の発効から18か月後の遅い方」とされています。2026年10月時点で実施法令の官報掲載は確認できず、実際の適用開始は後ろにずれる見込みです。ただし、分別回収マークや製造者情報など、すでに適用されている表示もあります。
Q. カーボンフットプリントの申告はもう必要ですか?
A. 2026年10月時点では算定方法を定める委任法が採択されていないとされ、申告義務はまだ始まっていないと解されています。委任法の発効から12か月後に始まるため、採択の動向を確認しておく必要があります。
Q. デューディリジェンスの延期は確定していますか?
A. 確定しています。Regulation (EU) 2025/1561により、適用開始は2027年8月18日に延期されました。
Q. 取り外し・交換可能性の義務は延期されますか?
A. 環境オムニバス法案で一部製品区分の延期やLMT電池パックの除外が議論されていますが、2026年10月時点では成立していません。現行の条文どおり2027年2月18日を前提に準備を進めるのが安全です。
まとめ
EU電池規則は、物質制限、CEマーキング、生産者のEPRがすでに適用されており、2027年2月18日にはQRコード、バッテリーパスポート、取り外し・交換可能性の義務が始まります。カーボンフットプリントとラベルは下位法令の遅れで適用時期が後ろにずれており、デューディリジェンスは2027年8月18日への延期が確定しました。環境オムニバス法案による修正は審議中のため、確定した事項と審議中の事項を分けて管理することが重要です。
電池を内蔵した機器を輸出するメーカーは、まず電池の区分と容量を整理し、取り外し・交換可能性の設計確認と、CEマーキング・EPRの責任者の確定から始めてください。
EU電池規則を含む欧州の環境・製品規制の調査を効率化する方法を、資料で紹介しています。
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