
2026年4月1日、労働安全衛生法(安衛法)の改正により、混在作業における措置義務の対象が拡大されます。これまで「労働者」に限定されていた保護の範囲が、個人事業者やフリーランスなどにも広がり、元方事業者※1や注文者が果たすべき義務の範囲が大きく変わります。
「結局、自社は何をすればいいのか」「協力会社との契約はどう見直せばいいのか」——建設・製造・物流の現場で、こうした疑問を抱えている元方事業者や購買・調達担当者の方は多いのではないでしょうか。本記事では、改正の概要から義務の線引き、入退場管理や協議体の運営、契約条項の見直しポイント、そして現場で使えるチェックリストの考え方までを体系的に整理します。
※1 元方事業者 ── 労働安全衛生法における用語で、一つの場所で行われる事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている事業者のうち、最も先次の注文者にあたる事業者を指す。
混在作業とは?2026年改正で何が変わるのか
混在作業の定義と典型的な現場
混在作業とは、一つの作業場所において、元方事業者の労働者と請負人の労働者、さらには個人事業者等が同時に作業を行う状態を指します。建設現場で元請会社と複数の下請会社が同時に工事を進めるケースや、製造工場で自社の従業員と請負業者が同じライン周辺で作業するケースが典型例です。
物流倉庫でも、自社スタッフ、派遣労働者、個人事業主のドライバーが同じ構内で作業する場面は珍しくありません。こうした混在作業の現場では、指揮命令系統が異なる複数の事業者が同じ危険源にさらされるため、安全衛生上の調整が欠かせません。
2026年4月改正の核心:保護対象の拡大
今回の改正の最大のポイントは、混在作業における安全衛生措置の保護対象が「労働者」から「労働者以外の者(個人事業者、フリーランス等)」にまで拡大されることです。
従来の安衛法では、元方事業者の措置義務は原則として「労働者」の安全衛生を守ることに限定されていました。しかし近年、建設業や物流業を中心に個人事業者として現場に入る人が増加しており、「同じ現場で同じ危険にさらされているにもかかわらず、保護の対象から外れている」という制度上の課題が指摘されてきました。
2026年4月1日施行の改正は、この課題を解消するものです。元方事業者や注文者は、混在作業を行う現場において、個人事業者等を含めた安全衛生措置を講じる義務を負うことになります。
出典: 厚生労働省「労働安全衛生法の改正について」
元方事業者・注文者の義務はどこまで?線引きを整理する
元方事業者に求められる措置義務
元方事業者は、混在作業によって生じる労働災害を防止するため、以下のような措置を講じることが求められます。
作業間の連絡調整を行うこと。関係請負人が行う安全衛生教育に対して指導・援助を行うこと。作業場所の巡視を行うこと。そして、協議組織の設置・運営を通じて、現場全体の安全衛生管理を統括することです。
2026年4月以降は、これらの措置義務の対象に個人事業者等が加わります。つまり、協力会社の「労働者」だけでなく、一人親方やフリーランスとして現場に入る者についても、同様の安全衛生上の配慮が必要になるということです。
注文者の義務との違い
元方事業者と注文者※2では、義務の範囲が異なります。注文者は、仕事を注文する際に、施工方法や工期等について安全衛生上問題がある指示を行わないよう配慮する義務を負います。また、特定の危険有害作業について、必要な措置を講じる義務もあります。
改正後は、注文者の立場であっても、請負人の労働者や個人事業者等が混在作業を行う現場において、安全衛生上のリスクが生じないよう必要な情報を提供する義務が強化されると考えられます。
※2 注文者 ── 仕事を他の事業者に請け負わせる者を指す安衛法上の用語。元方事業者とは区別され、安衛法では両者に対してそれぞれ異なる義務規定が設けられている(元方事業者には第29条等、注文者には第29条の2等)。
「どこまでが自社の責任か」の判断基準
実務上、最も悩ましいのは「どこまでが元方・注文者の責任で、どこからが請負人や個人事業者自身の責任か」という線引きです。
基本的な考え方として、混在作業によって生じるリスク——すなわち、複数の事業者が同じ場所で作業することで初めて発生する危険——については、元方事業者が調整・管理の義務を負います。一方、個々の請負人が自身の作業に固有のリスクについては、当該請負人が一義的に管理すべき範囲です。
ただし、この線引きは現場の状況によって変わりうるため、契約段階で責任範囲を明確にしておくことが重要です。
入退場管理と連絡調整の実務ポイント
個人事業者等を含めた入退場管理
混在作業の安全管理において、入退場管理は基本中の基本です。「今、この現場に誰がいるか」を元方事業者が正確に把握できなければ、緊急時の避難確認も、作業間の調整もできません。
改正後は、労働者だけでなく個人事業者等も含めて入退場を管理する必要があります。具体的には、入場時の安全衛生教育(新規入場者教育)の実施と記録、作業内容・作業場所・作業時間の事前届出と承認、緊急連絡先の把握と一覧表への登録、保護具の着用状況の確認といった運用を、個人事業者等にも漏れなく適用することが求められます。
日常的な連絡調整の仕組みづくり
入退場管理と並んで重要なのが、作業間の連絡調整です。たとえば、ある区画でクレーン作業を行う際に、同じ区画で別の請負業者が地上作業を行っていれば、重大な事故につながりかねません。
こうした作業の競合を防ぐには、朝礼やKY活動※3だけでなく、日々の作業計画の共有と調整を仕組みとして運用する必要があります。改正後は、この連絡調整の対象に個人事業者等も含まれる点を忘れてはなりません。
※3 KY活動(危険予知活動) ── 作業前に現場の危険要因を洗い出し、対策を話し合う活動。「K(危険)Y(予知)」の頭文字をとった呼称。
協議組織の設置と運営のポイント
協議組織に個人事業者等をどう組み込むか
安衛法では、特定元方事業者※4に対して協議組織の設置・運営が義務づけられています。この協議組織は、元方事業者と関係請負人が参加し、作業の安全衛生に関する事項を協議する場です。
2026年4月以降は、混在作業に参加する個人事業者等についても、この協議の場で安全衛生上の情報共有や調整を行うことが望ましいと考えられます。個人事業者自身が協議組織の正式メンバーとなるか、あるいは請負元を通じて情報を共有するかは、現場の実態に応じた判断が必要ですが、いずれにしても「情報が届いていない」という状態は避けなければなりません。
※4 特定元方事業者 ── 建設業・造船業の元方事業者を指す。安衛法上、一般の元方事業者よりも広い安全衛生管理義務が課されている。
協議内容の記録と保管
協議組織で話し合った内容は、議事録として記録・保管しておくことが重要です。万が一労働災害が発生した場合、「適切な連絡調整を行っていたか」を証明するエビデンスとなります。議事録には、開催日時、参加者(個人事業者等を含む)、協議事項、決定事項、担当者を明記し、関係者が閲覧できる状態にしておきましょう。
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契約条項の見直しポイント
協力会社との契約に盛り込むべき事項
改正を受けて、協力会社や個人事業者との契約書・覚書の見直しが必要になります。特に確認・追加を検討すべき事項は以下のとおりです。
まず、安全衛生に関する遵守事項の範囲です。従来「労働者の安全衛生確保」としていた条項を、「労働者及び個人事業者等を含むすべての作業従事者の安全衛生確保」に拡大する必要があるか検討しましょう。
次に、元方事業者への届出義務です。請負人が現場に個人事業者を配置する場合、事前に元方事業者へ届け出ることを契約上の義務として明記しておくと、入退場管理の運用がスムーズになります。
さらに、安全衛生教育の受講義務、保護具の準備・着用に関する取り決め、事故発生時の連絡体制と責任分担についても、改正内容を踏まえて文言を確認しておくことが望ましいでしょう。
契約見直しのタイミング
施行日は2026年4月1日です。新規契約だけでなく、既存の継続契約についても、遅くとも施行日までに条項の見直しを完了しておくことが理想的です。年度切り替えの契約更新時期と重なるため、今のうちから法務部門・購買部門と連携して準備を進めておくことをおすすめします。
現場で使えるチェックリストの考え方
チェックリストに含めるべき6つの観点
混在作業の安全衛生対応を現場で漏れなく運用するために、チェックリストの整備が有効です。盛り込むべき観点は次の6つです。
1つ目は、混在作業の有無の確認。当日の作業で、複数の事業者(個人事業者等を含む)が同じ場所で作業するかどうかを確認する項目です。2つ目は、入退場管理の実施状況。新規入場者教育の受講記録、緊急連絡先の登録が完了しているかを確認します。3つ目は、作業間の連絡調整の実施。朝礼での情報共有、作業計画の調整が行われているかどうか。4つ目は、協議組織の開催状況と議事録の有無。5つ目は、保護具の着用状況と作業手順の遵守。6つ目は、契約書・覚書における安全衛生条項の整備状況です。
チェックリストを形骸化させないために
チェックリストは「作って終わり」では意味がありません。現場の巡視時に実際に使い、結果を記録し、問題があれば是正措置を講じるというPDCAサイクルの中に組み込むことが重要です。また、法改正の内容が反映されているか、現場の実態に合っているかを定期的に見直すことも欠かせません。
まとめ|2026年4月施行に向けて、今から備えるべきこと
2026年4月1日の安衛法改正により、混在作業における元方事業者・注文者の義務範囲は明確に拡大されます。対応のポイントを整理すると、個人事業者等を含めた安全衛生措置の対象拡大を正しく理解すること、入退場管理・連絡調整・協議組織の運用を個人事業者等にも広げること、そして協力会社との契約条項を施行日までに見直しておくことの3点が柱となります。
安全衛生に関する法令は常に変化しており、改正の内容を正確に把握し、現場の運用に落とし込むには相応の労力がかかります。自社のリソースだけでは追いつかない場合、仕組みとして法令チェックを回せる体制を整えておくことが、リスクの低減と属人化の防止につながります。
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出典:
- 厚生労働省「労働安全衛生法の改正について」
- 厚生労働省「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会 報告書」(2023年10月)
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